トーナメント

一回戦 第二試合 

  金動 操緒 対     岩清水 りょう


会場は熱気に包まれていた。


第一試合から白熱した大相撲が繰り広げられたのだから。
しかも、優勝候補が一回戦で敗退するという大波乱が起こったのだ。


「第二試合、はじめます。」

次の取り組みは岩清水りょうと、金動操緒の対戦だ。
身長は金動の方が5センチほど高い。だが、気合ではりょうの方が
入っている様子だ。応援団もかなり異質であった。

「行けや、りょう!殺せ!」



「下から肘でかちあげちゃれやぁ!ガツンと!」


「それよりやっぱチョーパンだろ?鼻折ったれ!」

様々な色の特攻服応援団だ。優勝賞金30万を「みんなで」


使おう、という気でいる。今回の出場も先輩の指示だった。


「うぃっす!気合入れて頑張りますんで応援よろしく!」

お互いに礼をする。そして蹲踞するのだが、りょうの場合蹲踞というよりウンコ座りであった。
眉間に皺が寄り、対戦相手を威嚇している。対する操緒は平然として構え動じない。
異色の組み合わせだ。

「見合って・・・・・見合って」

「はっ・・けよい、のこった!」
ガンッ!と仕切り線を叩き、猛然とりょうが前に出る。そして操緒の頭に頭突きを入れる。
「いたっ!」 二,三歩後退する金動操緒。りょうはその機を逃さず追撃した。
突っ張り突っ張り突っ張り突っ張り、一息置いてまた突っ張り。操緒の顔に、胸に、突っ張りが入る。
防戦一方で操緒の体が大きく揺れる。だが土俵際まで追い詰められてはいない。
ドスン!ドスン!
りょうのそれは突っ張りというか掌底に近い。結構痛そうだ。
中腰で両手を膝に付き、りょうの猛攻にじっと耐える操緒の姿に同情が入り、
操緒の応援も増えてきた。りょうのツッパリ攻勢を前傾姿勢でジッと我慢する操緒。
顔にも苦痛の色がうかがえるが、それでも堪える。

「りょう!組め!ブン投げろ!」 特攻服応援団から激が飛ぶ。
「相手はもう疲れてる。足もわやになってっから!」

「うぃっす!」勢い良く懐に飛び込むりょう。相手の両脇に手が入り、すかさず廻しを取る。
その時・・・操緒の顔に笑みがこぼれた。りょうの廻しをしっかりと掴み、心の中でつぶやく。

「勝った。これが私の必殺の・・・・・スフィンクスの構え!」
・・・構えに名前付けたの?という突っ込みがきそうなので口にはしない操緒であった。
だが,操緒はこの構えに絶対の自信を持っている。この構えで
自分より大きい子にも勝ち、かつて相撲大会で連続優勝したのだ。
構えそのものは確かに格好の良いものではなかった。
腰を思いっきり後方に引いた、相手にしがみつく様なコミカルな構えであった。

しかし、その力は恐るべきものがあった。

膝を曲げ、脇をしぼり、尻を大きく突き出し頭をりょうの胸に押し付ける。
そしてヨタヨタと前進する。その姿に観衆は大笑いした。何とも滑稽なのだ。
・・・だが、りょうにとっては違った。笑い事ではない。

腰が重くて投げられないのだ。全然ビクともしない。しかも、
りょうが押そうとすると、内股になり股に力を込め、やはり微動だにしない。
先天的にかなり腰が重いのだろうが、お尻を極度に突き出し、さらに安定感が増している。
りょうが同じように腰を落とそうとすると操緒がりょうの脇を掴み、肩を浮かせる。
そして、相手の動きが止まると ゆっくりブルドーザーの様に寄っていく。
必死で振りほどこうとする岩清水りょう。だがさらに強い力で封じ込まれる。
もがけばもがくほどりょうの体勢が悪くなる。アリ地獄だ。
ジリジリと押され、なす術が無くなってきた。体勢が悪いので逆転狙いすら出来ない。
操緒はりょうを土俵際に追い込み、勝負俵に相手の足がかかるとさらに腰を落とし、
まるでスライムがへばり付くかのように相手に上半身を預けてしまう。

こらえようが無くなり、りょうはあっさりと土俵を割ってしまった。



りょうが海に落ちない様に力を抑える操緒。何故かその姿には貫禄があった。


「勝負あり!金動操緒の勝ち!」

勝敗を行司が告げ、また観衆が大笑いする。応援団も激怒した。
「何だ りょう!あのちゃらけた負けっぷりは!」
「 お前除名だ除名!ざけんな 」




 

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