一回戦 第五試合 その1

     芝城 祢々子  対       リリ
 
 

芝城 祢々子と、リリ。
この二人の取り組みは一回戦で最も注目されている 。

芝城 祢々子は前回大会の優勝者で、今回も優勝最有力候補だ。
幼いころから合気道を仕込まれ、その技の切れは参加者の中でもずば抜けている。
それにとどまらず、柔道、剣術、居合いもこなし、とりわけ相撲には強いこだわりを持つ。
そして女だてらに自分を侍と信じ、その振る舞いに魅了される女子も後を絶たない。
大和撫子というより、いわば侍女子だ。 

対する、リリ・高見はハワイ在住の日系3世だ。柔道が強く、何度も好成績を残している。
その投げ技はかなり要注意だ。タイミングよく決まれば、芝城も倒れるだろう。
それだけではない。彼女はアームレスリングの大会でも何度も優勝しており、腕力も抜群だ。
もし、芝城がちょっとした隙を見せるとあっさり吊り出されてしまうだろう。

力と技の激突、優勝候補同士の決戦だ。

  

「お互いに、礼!」
芝城とリリが土俵中央で向かい合う。二人とも威風堂々、自信の塊だ。

「腰を下ろして!見合って見合って!」

前の四戦には無かった重厚な緊張感がそこにあった。息を呑む観衆。どちらが2回戦に進むのか?

「はっけよいのこった!」

勢い良く飛びかかるリリ。芝城は受けて立つ構えだ。

芝城がタイミングよく左手を前に出し、リリの右手を封じる。一瞬遅れて右手はリリの前みつを取る。
芝城が掴んだリリの右手をグッ!と前に突き出す。リリの体が開き、右肩、右肘が浮く。
その体勢を嫌い、リリが右腕を引く。だが、芝城はリリの右腕を離さず、さらに押さえつける。

芝城はリリの何気ない行動を観て、リリが右利きだと予測していた。だから右を封じたのだ。
そしてそれは的中した。利き手を活かせずイラ付くリリ。顔にそれが表れている。
そこへ芝城が右手で下手投げを放つ。「クウッ!」リリは何とかその投げに堪えた。
芝城はその瞬間左手を返し、掴んでいたリリの右手を持ち替えた。右腕から右手首にだ。
そしてまた前に突き出す。リリは完全に手玉に取られている状態だ。

封じられた右手に気を取られるリリを芝城の必殺の一撃が襲う!

芝城は左足を大きく引き体を開き、下手出し投げを狙った。
その出し投げは完壁なタイミングで、もはや芝城の勝利は間違いない・・・・はずだった。
だが、土俵が滑りやすくなっており、左足がズルッと滑ってしまいそれに引きずられる様に
芝城は大きくバランスを崩してしまった。チャンスがピンチに変わる。

「なっ!」

だが、芝城祢々子も前回優勝者だ。瞬時に自分の体勢を建て直す。
だがそこへ、リリが襲い掛かった。建て直したとはいえ、芝城の体勢は万全ではない。
そんな芝城の左腰をリリはガッチリと掴んだ。絶対に離さない、という位力強く掴んでいる。

 

リリの右腕がグググッと盛り上がる。「え〜いっ!」そして芝城の体が一瞬宙に浮いた。
まるで振り回すような上手投げだ。かろうじて持ちこたえた芝城祢々子。
だが、その顔に驚愕の色がうかがえる。とっさに左足をリリの右足に絡める。

 

関係ない!とばかりに右から投げを打つリリ。絡んだ足があっさりと解けてしまう。
まさに豪腕。

だが、芝城もやられっぱなしではない。また左足を内側から絡め、左手でリリの右太腿を掴む。
そして相手に体をあずける。ヨロヨロッとよろけるリリ。だが踏みとどまる。
右足が絡め取られ、左足も掴まれている状態でリリは、なおも上手投げを打つ。
元々無理な位置からの投げなので、当然決まらない。だが、何度も投げを打つことで、
絡んだ足をまた解くことが出来た。リリは右手を思いっきり自分の方に引き、芝城の体を呼び込んだ。
足が宙に浮き、グラつく芝城。リリは片手一本で大きく芝城の体を揺らす。

不意に芝城が右足を大きく踏み出し、リリの右脚を狙った。二丁投げを試みたのだ。
だが、遠すぎて刈れない。技の失敗を取り繕うように押す芝城。
余裕を持ってこらえるつもりが、今度はリリが土俵に脚を滑らせ、押し込まれてしまう。

周囲が想像した通り、この取り組みは激しい戦いになっていた。

芝城 祢々子とリリ・高見

お互いが相手の得意技を封じ、自分の得意技を狙う技術戦だ。

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