一回戦 第六試合 その1

      郷乃山 瞳  対       文谷 千絵香

 
一回戦もいよいよ最後の試合になった。

郷乃山 瞳対 文谷 千絵香の取り組みだ。これが終わると
2回戦出場メンバーが決定する。土俵に二人が上がる。

それを見て客からどよめきが起こる。

二人に身長差がありすぎるのだ。
瞳の175センチに対して、千絵香の身長は150センチ。圧倒的であった。
タッパで勝敗は決められないが、それでも背の低い娘が不利に見えた。

判官びいきというか、何というか自然と文谷千絵香に応援が集まった。

「お嬢ちゃん、頑張れよ〜!」

2度、3度とジャンプする千絵香。周囲の応援を受けて俄然やる気が出た。
バック転を鮮やかに決めて観衆を喜ばせようとし、観衆も大喜びする。

対する郷乃山瞳は背は高いが脚が長く、細い体型で相撲向きとはいえない
体格であった。背筋をピンと伸ばし、長い足をそろえ、まるで鶴のようであった。

瞳は、戸惑っていた。

対戦相手の千絵香がどう見ても自分と互角に戦えるとは思えないのだ。
むしろケガさせたらどうしようか・・・。そんな心配をしていた。

「手加減してあげないと・・・・、。」



そう瞳が思った瞬間、千絵香がキッと瞳を見た。以心伝心か・・・。

お互いに礼をして仕切り線まで歩みを進め、蹲踞する。
背筋をピッと伸ばして蹲踞する瞳に、少し前傾気味の千絵香の蹲踞は対照的であった。
 
「両手を付いて!」
審判の指示に従い、構える二人。

「はっけよい・・・・のこった!」

陸上のスタートダッシュのように勢い良く飛び出す文谷千絵香。ロケットスタートだ。
これから立とうとする瞳の懐に潜り込み、一気に押す。
迷いのある瞳は完全に立ち遅れた。腰高の姿勢で、ズルズルと押される。
しかも、この土俵はかなり滑るので、先手有利な所が多分にあった。

「のこったのこった!のこったのこった!」

これはまずい、と押し返そうとする瞳だが、勢いに勝る千絵香に押し戻される。

大歓声が沸き起こる。こんな展開は、みんな予想していなかったのだ。
瞳が土俵際まで追い込まれる。今更ながら瞳は千絵香が見かけによらず,
かなりな力持ちだということに気付いた。苦悶の表情を浮かべる瞳。

腰高の瞳を、千絵香がさらに攻め立てる。四つに組んだ二人は完全に密着した状態になり、
瞳が腰高な分、身長差から瞳の股の所が千絵香のお腹に当たる。千絵香は持ち上げて
一気に押し出そうと瞳の内股を左太腿に乗せ、攻勢をかける。

瞳は千絵香のベルトをガッチリと掴みはしているが、防戦一方だ。
足の長い瞳は千絵香に懐に入られ、不得手な距離での戦いを余儀なくされている。
試合は、一方的な文谷千絵香のペースで進む。


千絵香の怒涛の寄りが瞳を襲う!
 
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