一回戦 第六試合 その2

      郷乃山 瞳  対       文谷 千絵香

 
  ガッチリ掴んだ廻しを引いて、全身を激しく振動させる文谷千絵香。

腰高の姿勢のため、大きく揺さぶられる郷乃山瞳。

まだ勝負俵に足はかかっていないが、かなりピンチな事がうかがえる。

千絵香が、がぶる、がぶるがぶる。がぶる。
蒸気機関車!とばかりにがぶり寄りを継続させる千絵香であった。
「のこったのこった!」

勝負はこのまま決着が付くかのように見えた。

「フウ・・・・・。」

だが、千絵香も少し疲れたのか一息入れる。蒸気機関車が停車した。
そこを攻めたい瞳であったが何分体勢が悪すぎる。腰を落とすには
一歩足を引かないといけない。だが、もう土俵際に近い。もう下がれない。
千絵香も、相手は攻められない、と見越しての一服なのだ。

この状況を何とかしたいがどうにも出来ず、膠着するしかなかった。
さながらその姿は、千絵香の太腿に瞳がまたいで座っているかのように見えた。
チラリと後ろを見る瞳。勝負俵がどの辺か、どれだけ後が無いかを
確認するためであったが、その瞳に 芝城 祢々子の姿が映った。



芝城 祢々子は彼女の方を見ていなかった。

瞳には、それが自分のことなど眼中に無いように見えた。怒りがこみあげた。

「ふざけんな、こんな所で負けてられるか!」

不意に、文谷千絵香のがぶり寄りが始まった。機関車再発進だ。
先ほど同様に攻勢をかける文谷千絵香。だが、瞳もやられっぱなしではいなかった。
千絵香のベルトをグッと引き付け、彼女の足を浮かせる。そして千絵香の寄りの勢いを
利用して振り回すように投げた。体重が軽いため、千絵香の体が宙に浮いた。


だが何とか着地する千絵香。体が入れ替わり、今度は千絵香が勝負俵を背にしている。
間髪いれず今度は逆方向へ振る瞳。ここがチャンスと上手投げを狙ったのだ。
千絵香の左足が高く上がり、これで勝負あったかのように見えた。
だが、文谷千絵香の類いまれなバランス感覚と、勝負に対する執念が、彼女を残らせた。
着地するやいなや、はしっこく回り込み、ピンチをしのぐ。めまぐるしく二人の体が入れ替わる。

千絵香の頑張りに観衆は、やんや やんやの大歓声だ。
このまま続くかと思われた勝負は、不意にあっけなく終わった。

少しオーバー気味に瞳が投げの予備動作をする。
瞳が上手投げを仕掛けると読んだ千絵香が踏ん張ろうとして後ろに重心を移した。
その時、瞳が腰を沈め、上手投げとは逆方向に千絵香の体をひねった。
郷乃山瞳の必殺技、上手捻りだ。



足を滑らせストン、と腰を付く文谷千絵香。しまった、という顔をしている。

郷乃山 瞳の勝利だ。

だが、勝った瞳に勝利の実感は無かった。
相手をナメていたことを瞳は後悔していた。勝負が付くまでは薄氷を踏む思いであった。
もしこの娘の体重がもう少し重かったら、あの土俵際でのがぶり寄りが長く続いたら?
さっきの上手捻りが決まらなかったら私は勝てただろうか?本当に・・・。

  

・・・ともあれ勝ちは勝ちだ。次は念願の芝城との勝負が待っている。
気を引き締める郷乃山 瞳。

「待っていろ、芝城 祢々子!」

こうして、1回戦が終了し、2回戦に進む者が決まった。

アリシア・マ−セラス    藤松 千代

  芝城 祢々子        田原坂 敦子

郷乃山 瞳         金動 操緒

以上6名が次の戦いに臨む。

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