トーナメント

二回戦 第一試合 その1

        金動 操緒 対   アリシア・マーセラス   




一回戦で勝ち残った6名に休む間も与えず、第二回戦が始まる。

 「これより第二回戦をはじめます!」 
 
  マイクを持った男の声が場内に響いた。歓声が沸き起こる
 
 「 アリシア・マーセラスさん。 金動 操緒さん。土俵に上がってください 」

呼ばれた二名が土俵に上がる。そして、その体格差に観客から声が上がる。
アリシアは身長179センチ。対する操緒は163センチ。16センチの身長差だ。
でも操緒は動じない。堂々たるものだ。そんな操緒に声援が飛ぶ。

「姉ちゃんガンバレよ!外人さんに負けんなよ!」
こんな応援が会場を支配していた。姉ちゃんとは金動操緒のことである。

勝敗予想も五分五分であった。

一回戦で操緒が見せた横綱相撲は、かなりなインパクトがあった。 
 アリシアも一回戦の長い長い大相撲を乗り切り、そして見事に勝利した。
観客は、強豪同士の好取組になると期待している。

「かまえて!」

アリシアは前の試合同様に左足を下げ、ダッシュしやすい様に構える。
対する操緒は腰を落とし、真正面にアリシアを見据える。
勝負の展開としては、アリシアがリーチを活かし、押し切れば
アリシア。組み止められれば金動操緒。予想だけ言えば
1回戦のときとあまり変わらなかった。

「はっけよい・・・・」


「のこった!」

一回戦のときと違い、アリシアは組みにはいかなかった。
両手を前に出し、相手に向かって突っ込んでいく。
だが、突きの力が弱いせいか、あっさり懐に入られてしまう。

「あの外人さん、本当は突き押し相撲が苦手なんだ。」

「・・・・となると、あのレオタードの女の子の方が有利か。」

「いや、まだ分からないぞ。あの外人さんは勝負強いところがあるし」

だが、アリシアは押されっぱなしではなかった。素早く判断を切り替え、
組むやいなや、操緒の上にのしかかるような形で上下に激しく揺さぶる。
危なく転びそうになる金動操緒。だが何とか持ちこたえる。

 実は金動操緒は、アリシアと安堂の取組を見ていなかった。
全く未知数のまま土俵に上がったのだ。相手の突っ張りに耐えて、
隙を見て自分の相撲に引きずり込もう、そうなればこっちのモノだ。そう考えていた。
だが・・・・いざ懐に入り込んでみたら、アリシアから想像していたよりも
物凄い力を感じた。腕力をベースにした、相撲力とは少し違った、そんな力だ。
体勢によっては体ごと持ち上げられ、そのまま土俵の外へ放り出されてしまうかもしれない。

「この人はさっきの不良の娘とは違う・・・・!」

ただ・・・・操緒はアリシアが廻しを取ろうとしない事にも気付いた。
というか、取ろうとはしているのだが、どこかぎこちない。掴もうか止めようか、みたいな。
ただ、めまぐるしく自分の立ち位置を変え、廻しを完全には取らせない。
動きが止まった時には片手を押さえ、こちらの有利な手にしてもらえない。

「手強い相手だわ、頭もいいし。」

そう操緒が思った瞬間、アリシアが攻めに出た。操緒の体にのしかかり、体重を乗せてくる。
堪える操緒。だが、アリシアは腕力にモノをいわせ、上下に激しく動く。
操緒がバランスを崩す。だが、アリシアにしがみつき、内股になり腰を落とす。
完全な防御姿勢だ。アリシアも攻めあぐねている。
アリシアにしてみれば、亀の甲羅を叩いているようなものだ。操緒が上半身を沈め、
両脇をグッと締め、後方にお尻を突き出す。操緒の必勝の構えだ。



「んっ!」

負けじとアリシアも腰を落とす。一回戦の対戦相手、安堂猪子との対戦のときは、
安堂の方から積極的に攻めてきた。だが今回は違う。金動操緒は相手が動くのを待ち、
相手が体勢をほんの僅かでも崩したらそこで捕まえる。相手の不利な位置で戦わせるのだ。
耐えて崩れるのを待つ。それが金動操緒のスタイルだった。
アリシアも組んでみて、相手の強さの質に気が付いたのか迂闊には攻めない。
操緒は右手で、アリシアは左手でお互いのベルトと廻しを掴んでいる。どちらも万全とはいえない。

「 よい、はっきよい!」

両者・・・息を殺して相手をうかがう。

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