トーナメント

二回戦 第三試合
 

       芝城 祢々子 対   郷乃山 瞳  


 
  二回戦もこの取組で最後だ。
 
 この一戦の勝者を含めた三人が、次の準決勝を戦うことになる。 
 
だが、一回戦も二回戦も雰囲気が妙だった。
相撲を見ている観客が、である。それもごく一部の人達の応援が尋常でないのだ。
中で相撲を取っている女の子たちよりも熱く、搾り出すような声を出して声援を送っている。
一人ならその人が浮いて終わりなのだが、そういうのが会場に何人かいる。 

まるで、「鉄火場」 そのものであった。

「二回戦最後の試合を行います。芝城さん、郷乃山さん。土俵に上がって下さい。」

 両者が土俵に上がる前に、二人の屈強そうな男たちが土俵に上がり、滑らないよう
念入りに拭いていた。 波が打ち寄せてくるので結局滑るのだが、やらないよりは
 ずっとましだろう。「瞳さま。この位で宜しいでしょうか?」男が郷乃山瞳にたずねる。
「結構。」瞳が返事をする。瞳の家の使用人だったのだ。

瞳は芝城 祢々子を睨みつけていた。祢々子もそれに気付いていたがあえて無視した。
土俵中央で対峙する二人。身長は10センチ近く、郷乃山瞳の方が高い。
瞳はゆっくりと、そして力強く祢々子を指差す。



この二人には何か過去に因縁があるようだ。
だが、芝城は、瞳のことを覚えていないようだった。一瞬、愕然とする郷乃山瞳。

「・・・あの〜。始めちゃっていいっすかね?盛り上がっている様ですけど」

行司が両者に聞く。

「いや、盛り上がってるのこの人だけですから、私は別に。」

芝城 祢々子がクールに応える。それを聞いて、瞳の方も醒めるかと思いきや、
ますますヒートアップしていった。「おのれ、芝城 祢々子!」



気合充分である。特に郷乃山瞳は構えにも気合が伝わってくる。

「はっけよい・・・・のこった!」

開始早々、瞳が芝城に張り手をかました。そして間髪を入れず右手で芝城の
腰を掴み、がっぷり四つの状態になる。リーチは瞳の方が長いので、距離を
取って戦うのかと思いきや、真っ向勝負を挑んだ。声援が飛ぶ。

先に仕掛けたのは、芝城 祢々子の方だった。芝城は
まず右足を飛ばし、内掛けを狙った。だが、咄嗟に瞳は左足を浮かせ、空転させる。
今度は芝城、浅く腰を落とし寄り立てようとする。瞳が二歩、三歩とさがる。
瞳が体を入れ替え、攻めようとするが芝城に押し返され、土俵中央に戻される。

お互い相手の隙を付こうと横へ回ろうとする。芝城が今度は左足を外側から絡め、
外掛けを狙う。瞳が解こうとするが容易にはほどけない。だが、瞳を倒すまでには至らない。
芝城は自分から足を引き、横へ回ろうとする。休まず動き回る両者。

「んがぁっ!」

瞳が力を込めて寄ろうとするが芝城は左脚をピン!と張り、その寄りに耐えた。
両者の動きが止まった。お互いが相手の出方を伺っているようだ。



不意に、芝城がまた動いた。
伸ばした左脚をいきなり左側にずらし、のしかかっていた瞳の支えを外した。
投げを打ち、一気に勝負に出た芝城であったが、瞳の体勢が充分で、決まらない。
何かこう、徹底的に研究されているような違和感を芝城は感じていた。
自分が出す全ての技の対策が郷乃山瞳には整っているのだ。相手のことは知らないのに。




 めまぐるしく動き回る二人。土俵は苦労の甲斐あってか運良くか、滑らなかった。
 芝城祢々子は長身で細身な郷乃山瞳に対しては、その長い脚を引っ掛ければ
すぐ終わるとタカをくくっていた。だが、全然違っていた。それとあと・・・。

 「この香水・・・・どこかで・・・。」
 
 祢々子は瞳の顔は覚えていないが、香水の匂いだけは覚えていた。あと何か・・・・。
 
「!」
 
思い出した・・・・。

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