トーナメント

準決勝 その1

        藤松 千代 対   アリシア・マーセラス 


ついに準決勝だ。
  
 
 
 アリシアと藤松千代が戦い、勝った方が芝城祢々子と優勝決定戦を行う。
 芝城祢々子は前回の優勝者という理由からか、シードの様な扱いとなる。
 


「ただいまより、準決勝を行います!アリシアさん。藤松千代さん。土俵に上がって下さい。」

ここへ来て、少しアリシアの方が疲れ気味であった。

一回戦の安堂猪子との相撲はどちらも譲らずの大相撲だった。
お互いが一歩も退かず、あまりの長さに二度も水入りが入ったほどだ。

二回戦は金動操緒との取組だ。この相撲も一回戦よりは短いというだけで 
 やはり長丁場になり、勝敗も紙一重の差であった。
この二試合だけで全体の取り組み時間の大部分を占めるのだ。 

対する藤松千代はほとんど強敵と対戦していない。一回戦も二回戦も
大して力を使っている様には見えなかった。全く疲れていないのだ。
 土俵中央で両者が向かい合った。そしてゆっくりと構える。

「見合って・・・・・見合って・・・・。」

アリシアと千代。この二人は同じ学校の同学年でもある。お互いの仲も良い。
だが、友達同士に見えない真剣な睨み合いであった。
それを見て観衆も応援する。特にアリシアをだ。一回戦、二回戦と彼女の力のこもった
相撲は見ている者を惹き付けるモノがあった。二人が両手を地に付ける・・・・・。

「はっけよい、のこった!」

勢いよくぶつかりあうアリシアと千代。双方後ずさりする。立ち合いは互角に見えた。
・・・・いや。アリシアの方が少し多く下がっているようだ。藤松千代は諸手突きで
アリシアを突き放す。吹っ飛ぶアリシア。藤松千代の体当たりの威力は相当な
モノがあるようだ。だが辛うじて土俵際で踏み止まる。止めをさそうと千代はアリシアに
猛然とダッシュしてきた。藤松千代は出場した12人の中で一番リーチが長い。
そして多分、一番重いだろう。だがその割りにスピードがあり、突進力は相当であった。
諸手突きを仕掛ける千代。だが、アリシアも前傾姿勢でグッと腰を落として待ち構える。
千代の諸手突きでアリシアの上体が弓なりになるが、何とか踏み止まっている。

「くうう・・・・。」力いっぱい両手で押す藤松千代。
「ン・・・・・ンッ。・・・・・ンッ。」土俵際で耐えるアリシア。

アリシアは千代の押しで体を反らすが、何とか立て直す。千代の廻しを取ろうと試みるが
リーチに差があるせいか上手くいかない。そんな攻防が一分ほど続いた。



「頑張れアリシア!」
特に知り合いでもない観衆がアリシアの名前を呼ぶ。
 
「のこったのこった!のこったのこった!」

これでは埒があかない、と思ったのか千代はアリシアと胸を合わせ、ベルトをガッチリと掴んだ。
そしてグググッ!と引き寄せ上から体重を乗せる。苦悶の表情を浮かべるアリシア。
負けじとアリシアも千代の廻しを掴む。がっぷり四つの力相撲になってきた。



「ガッ!」

気合とともにアリシアが千代を吊り上げ、何歩か前進した。そのまま土俵外まで
持っていくかと思いきや、勝負俵手前で力尽きて千代を降ろした。
アリシア、何とかピンチは脱したがエネルギーも結構使ってしまった。

千代が有利のまま手詰まりの膠着した状態が続く・・・。

不意にアリシアが廻しを掴んでいた手を離し、腕を千代の首に巻き付けた。
一回戦で安堂猪子を、二回戦で金動操緒を退けたアリシアの必殺技、首投げを
狙ったのだ。だが、千代もそれは来ると思っていたのか、容易にかからない。
アリシアの首投げは相手の前進力を利用した、いわばカウンターのようなものだ。
疲れているせいか、アリシアの技の選択もずれてきている。タイミングも切れも冴えない。

2分経過・・・・。
 
二人とも相手を押す力を緩めない。藤松千代が押し勝っても、アリシアが
その勢いを利用して体を入れ替え、そしてまた全力で押し合う。
だが、今回の取組で押し勝つのは千代の方であった。
前の二戦と違いアリシアが完全に押し負けている。

「ウ、ウ〜ン!」

「ん、ん・・・・くっ!」

「のこった、のこった!」

またしても消耗戦だ。

3分経過・・・・。

両者、特にアリシアの呼吸が乱れてきた。一息も入れず全力で押し合う二人。
 
「水入り!」

疲労の目立つアリシアが救われるような形で止めが入った。
藤松千代の廻しが緩んできたのでそれを直すためだ。

「もしアリシアが勝っても決勝で当たる芝城祢々子には勝てないのではないか?
あの疲れ方では・・・・。決勝進出はあの背の高い娘かな」 そんな声が聞こえてきた。
 
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