トーナメント

決勝戦
 
        芝城祢々子 対   アリシア・マーセラス 


いよいよ決勝戦だ。
「アリシアさん。芝城さん。土俵に上がってください。」
土俵に上がろうとする芝城祢々子に床野からクレームが付いた。

 

このまま無視して強行しても良かったのだが床野が執拗に食い下がり
このままでは埒があかなかった。芝城が言った。

「面倒くさいからもう負けでいいです。」

それを聞いた伊野は飛び上がらんばかりに驚いて芝城を止めた。

「な、何を言い出すんだろん!」

ここまで順調に勝ち進んできたのに最後の決勝戦で棄権など
されたら全ては水の泡だ。しかも決勝戦の相手は芝城より大きいとはいえ
激戦の連続で疲れている。伊野は必死で芝城を説得した。
 


伊野の涙ながらの説得に折れ、渋々芝城は巫女服の袴の丈をカットした。
すったもんだでやっと決勝戦が開始される。



「見合って見合ってぇ。」

芝城はいつでも立つ!とばかりに両手を付いている。対するアリシアは
腰を落として右手を付き、立ち合いのタイミングを計るかのように左手を軽く動かす。


「はっけよ〜い・・・・。」

「のこった!」

 立ち合い、先手を取ったのはアリシアの方だった。
両手を付くやいなや少しフライング気味に早く立ち、諸手突きを芝城の肩に当てる。
咄嗟に応じたが僅かに出遅れた芝城が一歩引いてしまう。アリシアはその隙を逃さず踏み込み
頭を芝城の胸に付け、内側から右腕で左脇を差し芝城の右手首を左手で掴んだ。

一番厄介な芝城の手業を封じたのだ。

「くっ!」

腰を引き、上体を倒すアリシア。身長はアリシアの方が12センチほど高いが
丁度胸を借りるような形で、下からズンと突き上げる。対する芝城は
左手でアリシアのベルトを掴もうとするが、アリシアの懐が深く届かない。
それでも何度か試みるがやはり駄目だ。



「のこったのこったぁ!」

芝城祢々子はアリシアがこんな戦い方をしてくるとは思っていなかった。
芝城がアリシアに抱いた印象は、初心者というか素人に近いものだった。
ほとんど廻しを取ろうとしない腰高で腕力任せのプロレスまがいな外人さん。
負ける要素は何一つ無い、そう思っていた。

  最初の芝城の予定では腰高のアリシアが自分の首を抱え込もうとした所を
カウンターの切り返しで瞬殺するはずであった。

しかしフライング気味の立ち合いといい、芝城は完全に裏をかかれてしまっていた。
自分の右手を掴んでいる手の握力も相当なもので、芝城の予想を超えている。
振りほどこうとしても解けない。しかもリーチ差があるのでベルトに手が届かない。
立ち合いからアリシアのペースで試合が進んでいた。芝城が封じられている。
芝城の顔に少し焦りの表情が見えた。手の内を知られている・・・。

「のこった、のこったのこった!のこった!」
「このままじゃ駄目だ。」

 

だが芝城もやられっぱなしではいなかった。差し込まれていた左腕でアリシアの
ベルトを掴む。だがアリシアの懐が深いため、しっかりとは握れなかった。
無理気味な体勢から上手投げを芝城は放ち、大きくアリシアが揺らいだ。だが芝城の
体勢が不十分なため投げるまでには至らなかった。芝城の右手もまだガッチリ握られている。
アリシアが腰を振って、芝城に浅く掴まれたベルトを切った。

そしてアリシアは頭を付け芝城を押す。アリシアの額が芝城の顎のあたりに当たり、
 芝城は顔をそらしてしまう。掴まれた右腕を大きく振り、ほどこうとするがやはり駄目だ。
それでも押されまいと踏ん張る芝城にアリシアの前進が止まる。
 
芝城は瞬間的に掴まれた右手首を外側にクルッと返して逆に掴み返した。この手は
さっきから何度も試みていたのだが、アリシアのグリップ力が強く失敗し、やっと成功した。
 投げ捨てるようにアリシアの左手を離し、すかさず芝城はアリシアのベルトを
 取りに行った。だがアリシアはそれに気付き「ダメッ」とばかりに掴みなおす。
 
 苦労して振りほどいたはずだが、また振り出しに戻ってしまった・・・。
 だが、アリシアの手の握力も弱まっている。さっきより手首を返し易いはずだ。
 
 「はっけよい!」
 
 アリシアが掴んだ右手を芝城に押し付けてきた。そして強引に押す。耐える芝城。
 だが猛攻に持ちこたえるのと同時に、芝城は左手でアリシアの腰のベルトを、
 今度はガッチリと掴んでいた。徐々に芝城の体勢が作られていく・・・。
 
 不意にアリシアが作戦を変えた。
  この体勢だと、負けはしないかもしれないが勝つ事もできないだろう。
自分から掴んでいた右手を離し、首に手を掛ける。得意技の首投げを狙うのだ。
それに対応して芝城も動く。空いた右手でアリシアの腰ベルトを取ろうとする。
それに気付いたアリシア、あわてて腰を引き、左腕を芝城の脇の下に入れる。
負けじと芝城も巻き返すが、更にアリシアもそれを返す。

 互いが差し手を取り合う巻き返し合戦だ。高速でのやりとりが続く。

右手もアリシアのベルトを上から掴み、両廻しが入る形になった。これで投げが打てる。
 今度は逆に芝城がアリシアの胸に頭を付ける格好になり、アリシアは
 芝城の両脇に差した両手をロックして、ちょっとしたリバースフルネルソンに近い
体勢になっていた。これで首が極まっていれば正にそれだ。



「のこったのこった!」

激しく暴れる二人。お互いが必死に押し合っており、勝負は拮抗していた。
しかしこうなると、疲労が残るアリシアに不利だ。
 
「ハァ・・・ハァ・・・・ハァ・・・。」

 疲れたアリシアに隙を見出した芝城が勝負に出た。
 右脚をアリシアの左脚に引っ掛け、大きく体を倒した。掛け投げだ。
両者の足が高く上に上がり、アリシアがグラついた。
勝負あった・・・・ように見えた。

投げられる瞬間アリシアは咄嗟に上から芝城の内股に手を入れた。
アリシアにしてみれば掴み所が無かったため必死で掴んだのだが、
芝城は驚き、大きくバランスを崩した。ほぼ同時に倒れこむ両者。勝敗は・・・・。

「アリシアの勝ちだ!」 叫ぶ床野

「何言ってるろん!普通に芝城の勝ちだろ〜ん!」伊野が言う。

審判の判定は・・・・。

「同体!取り直し!」
 
 取り直しだ。倒れた芝城は隣で倒れているアリシアをキッと睨み付ける。
 決勝戦はまだ続く・・・。
 
その2 

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