一回戦 第五試合 その2

     芝城 祢々子  対       リリ




お互いの頭を付け、押したり引いたりを続ける二人。互角の展開だ。
リリの左手はしっかりと芝城の腰巻を掴んでいる。また投げを狙い、リリの右腕が唸る。
何度もグラ付く芝城祢々子。だが、倒れない。相当な防御力とバランスの良さだ。

・・・あるいは、芝城自身が相手の投げの来るタイミングを掴んだのか。

これではいけない、と思ったのか、リリは芝城の右肩を左手で押さえ、腰を落として押す。
不意を付かれたのか芝城が二歩三歩と下がる。あと少しで勝負俵に足がかかる。
芝城が足を開き、腰を落として防御の姿勢を取ろうとしたその時
リリが左足を後方へ引き、芝城を投げようとする。芝城祢々子の腰が浮いた。

お互いの立ち位置が逆なら勝負はリリのものだっただろう。

だが、リリの投げは→方向にまっすぐ力任せに投げるので相手は大きく揺らぎ、
吹き飛びはするのだが、転ばないのだ。芝城は土俵中央で体勢を立て直す。

試合は膠着し、今度は腰を落としての力比べになっていた。
そういうパワー勝負ならリリの方が上だ、と思われていたが、
芝城も全く押し負けてはいない。押しつ押されつのがっぷり四つ展開だ。
機を見て芝城が二丁投げを狙おうと足を軽く上げるが、やはり相手の脚が遠くて諦める。
失敗したらそこを狙われるのは間違いないからだ。リリ自身、二丁投げは得意なので
それの対策も万全であった。体を入れ替えるリリ。そしてまた四つに組む。

動き回ったせいか、さっきより芝城の体がずれていた。リリの左胸に芝城の左肩が当たり、
芝城は半身のような姿勢でリリを押している。リリのチャンスだ。

「ウ〜ンッ!」

リリが猛チャージを始めた。ズンズン押して、芝城を土俵際まで追い込んでいる。



だが、芝城も意地を見せる。土俵を丸く使い、時計回りに上手く回り込む。何とか逃げ切った。
だが、リリは素早く押す方向を変え、再度まっすぐに芝城を押しまくる。
ここが勝負どころ、と踏んだのだ。土俵際まで押し込まれる芝城祢々子。

だが、芝城は両手でリリの左手を掴んでいた。もはや押すことしか頭に無いリリ。
顎を芝城の左肩に付け、さあ、フィニッシュというその時・・・・。

芝城祢々子の姿が一瞬、視界から消え、
次の瞬間、リリの体は一回転していた。


ドスン!

観衆は一体、何が起こったのか、その場では把握できなかった。
ただ、息を弾ませ、そこに立っている芝城祢々子と、同じように息を弾ませ倒れている
リリの姿を確認し、勝ったのは芝城祢々子だということが分かっただけであった。

一瞬の出来事だったので、どんな技で勝ったのかも分からない。

だが、それでも期待通りの好取組であったことは間違いない。大いに沸く観衆。

そんな中、勝つのは当然!とばかりに悠然と土俵で勝ち名乗りをもらう
芝城祢々子の姿がそこにあった。



 
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