トーナメント

二回戦 第三試合 その2
       芝城 祢々子 対   郷乃山 瞳  




 芝城 祢々子は思い出し笑いをしてしまった。

失礼とは思ったがあの時の事を思い出すとこらえようにもこらえられない。
それを見た郷乃山 瞳は羞恥のあまり真っ赤になり、そして逆上する。

「がぁっ!」

瞳が一気に寄りたてる。芝城は不意を突かれたせいか押し込まれてしまい
ズルズルと下がってしまった。いや、それだけではない。瞳の力が凄いのだ。
 瞬間的な怒りの馬鹿力と、一年を費やした鍛錬の成果だ。


 
これで決まりか?と皆が思ったその時・・・・・。少し腰高になった瞳を
芝城が吊り上げた。身長の割りに瞳の体重が軽いせいかあっさりと持ち上がる。

「く・・・。この!」

宙に浮いた脚をバタバタさせながら抵抗する瞳を芝城は二三歩前に進み、そして降ろす。
相手の横に付こうと互いの腰を掴み、めまぐるしく動き回る二人。
瞳が巻き返しを試みるが、すかさず芝城も巻き返す。激しい攻防だ。
両者、差し手争いから投げの打ち合いになる。瞳が上手を取り、芝城が下手だ。
上手投げと下手投げの打ち合いの場合、上手の方が有利だったりする。
 芝城の方が少しだけ、バランスを崩した様に見えた。体勢を立て直そうとする芝城。



そこに合わせるかのように瞳は逆方向に芝城を捻り倒そうとした。下手捻りだ。
完全に不意を突かれ、芝城は座り込んでしまった。だが腰も手も付いていない。
  勝負はまだ付いていなかった。咄嗟に立ち上がる芝城。「危なかった・・・・。」

芝城祢々子は今までとは勝手が違うことに気付いた。行動を読まれているのだ。
無防備な相手の手を取って捻り倒すのが芝城のいつもの得意手であった。
だが今度の相手は手を取ろうとしても他の相手と違って容易に取らせてくれない。
引っ掛け易そうな長い脚も、動き回るので掛からない。研究し尽くされている・・・。

芝城は気を引き締めた。芝城祢々子は、郷乃山瞳を強敵と認識したのだ。

「決勝まで取っておくつもりだったが・・・アレを使う。」

瞳の胸に頭を付ける芝城。瞳の右腕を左手で掴み、右を封じる。
瞳も負けじと左を巻き返し、そのままの体勢で押し合いになる。
少しの間動きが止まったが、力は瞳の方が強いのか、芝城が押され始めた。

「・・・よし。このままいけば勝てる!」

水に落としてやる。で、浮き上がったその姿を上から見て笑ってやるんだ。
瞳には、勝利をおさめた自分の姿がイメージとして映っていた。笑いがこみあげる。

その瞬間、芝城祢々子の姿が目の前から消えた。

芝城が掴んでいた瞳の右腕を突然離し、左足を引きパッ!と体を開いた。
芝城祢々子と郷乃山瞳の体が一瞬で入れ替わり、その変化に瞳は対応出来ない。
 出し投げだ。芝城祢々子は最後の奥の手としてこの技を取っておこうと思っていたが、
ここで使う事にした。瞬間的に手首を返す。よろける郷乃山瞳の目の前に海が広がる。



「この女!わざと下がってたんだ!」

嵌められたことに気付いた瞳。だがもう遅い・・・・。
土俵際でよろける瞳に芝城が止めの一押しを決めて、勝負は決着した。

芝城祢々子の勝ちだ。 
芝城の鮮やかな技の切れ味に観衆から拍手が起こる。
芝城祢々子は、過去にこの技を見せたことは無かった。それだけに
過去のデータに頼りすぎた瞳はモロに引っかかってしまった。

 芝城祢々子が電光石火の上手出し投げで勝利を飾り、次に進む。



その1

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