トーナメント

準決勝 その2

        藤松 千代 対   アリシア・マーセラス 


行司が藤松千代の乱れた廻しを直している。それを待つアリシア。
疲れのせいかアリシアの足がフラついた。膝に手を付き大きくため息をつく。
今回もまた長い相撲になってしまった。



「ガンバレ大相撲の金髪ねえちゃん!」

声援が飛ぶ。危うい逆転劇を二度も演じたアリシアに応援が集まっていた。
アリシア、それに力こぶを作って応える。

「構えて」

一方、千代は千代で疲れているアリシアを攻めきることが出来なかった。
千代がアリシアと普段仲が良いという事もあった。
だが、一番の原因は藤松千代が格闘技の未経験者だということだ。
前進前進でアリシアを追い詰めても体を入れ替えられ、逆に攻められる。
アリシアのベルトを掴んで投げようとするのだが、相手が万全なところに
投げるため決まらない。両者ともに相撲の稽古はしていないが、格闘技が
ベースのアリシアの方が、試合の駆け引きの点でほんの少しだけ有利であった。
 
 「はっけよい、のこった!」

水入りをはさんで取組がまた始まった。始まりの合図とともに  
突進する二人。一度目の立ち合いに続き、真正面から胸と胸がぶつかりあった。
だが、今回はアリシアが大きく退いた。そこへ容赦なく両手で突きを入れる千代。



アリシアはたまらず横に回り込む。千代が素早く方向転換してそれを追う。
諸手突きで弾き飛ばされるアリシア。追いかける千代。
追いかけっこのようなモノが何回か繰り返された後、アリシアが千代の諸手突きを
下から弾き上げ、懐に入り込んだ。互いの廻しを掴み再びがっぷりになる二人。

「う〜ん・・・・・・」
「ウ〜ンッ!」

どちらも下がらない。二人とも足腰は鍛えに鍛え上げているので力が拮抗しているのだ。
相撲にこだわりは無いが何故か二人とも「負けてもいいや」という気になれなかった。
 最初は相手が手を抜いたら自分も手を抜こうとお互いが思っていた。でもどちらも手を抜かない。
 そして長丁場になり、完全に本気になってしまっていた。お互い特に勝っても意味は無い。 

とにかく負けるという形は嫌だ、といった所だろうか。

一歩も譲らぬ力相撲、しばらく膠着状態が続いたがやはり押し負けたのはアリシアの方だった。
 お互い腰高で一歩、また一歩と下がっていくアリシア。顔に疲労の色がうかがえる。
掴んでいた廻しを離したアリシアが苦しまぎれに 首投げを仕掛けるが千代は崩れない。
千代にとって絶好のチャンスだが体勢を崩したアリシアを攻め込む所まではいかなかった。
すぐにバランスを立て直したアリシアが千代に当たる、というかもたれかかってきた。
もう余力が残ってないので押しも弱い。疲労したアリシアに千代も少し戸惑っていた。

「のこった、のこった!  はっけよい!」

囃す行司。アリシアの頑張りに応援も更に大きくなる。

「くっ!」
「ン・・・ガッ・・・!」

またしても首投げを仕掛けるアリシアだが技に力が無く千代はビクともしない。
千代の首に右腕を巻きつけ何度も投げ動作を繰り返すが、技を出す方向が単純すぎる。
体力の限界か・・・・。

「・・・・早く勝負を決めてあげよう・・・。」

首に巻きついたアリシアの右腕をそのままに、両手で軽くアリシアのベルトを掴み、
腰高の姿勢で千代は一気に寄りに出た。アリシアが左腕で千代の差し手を抱え込む。
・・・だが千代の前進は止まらない・・・。
 
アリシアがまた首投げを狙った。それを千代は完全に予測しており
首投げの来る逆の方向に力を込め、それに耐えようとした。

その時・・・・勝負はついた。

「きゃっ!」
ドスン!と音を立て尻餅を付いたのは・・・・千代の方だった。

アリシアが千代に巻きついた右腕を急激に回し、千代の前進に合わせるように
首投げと逆方向に捻ったのだ。同時に左腕を返し、腰を捻り回転を助ける。
 アリシアの予想外の動きに勝ちを焦った藤松千代の思考は追いつかなかった。
この時、この技を狙ってアリシアは首投げばかりを狙っていたのだ。
 
アリシアの勝利だ。決まり手は首捻り。



格闘というか一対一競技の経験が全く無い藤松千代がアリシアのフェイントに
あっさりと引っ掛かってしまった。 

最後の取組である決勝を戦うのはアリシアと芝城祢々子に決まった。

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