トーナメント

決勝戦 その2
 
        芝城祢々子 対   アリシア・マーセラス 


 普段の芝城祢々子とは少し違っていた。
クールで芝城が、少し熱く、感情的になっているように映った。

「 アメリカ娘に相撲で負けるもんか・・・。」

それは何と無くだがアリシアにもそれは伝わっていた。だが気付かないフリをする。

両者、仕切り線の位置まで戻り、蹲踞をする。

「はっけよい・・・。」

いきなりアリシアが立つ。
「立つ」 といっても前にではなく腰を下ろした姿勢から普通に立ち、右手を軽く前に出す。
 
アリシアは「待った」をしたのだ。
 呼吸が合わない、とばかりに後ろを向き何歩か歩いて元の位置に戻り、腰を下ろす。
 
「大相撲じゃあるまいし・・・。」

 芝城祢々子はそう思ったが顔に出さない。スッと立ち上がる。
 
 気を取り直して腰を下ろす。気のせいか、芝城祢々子の顔が厳しくなる。

「・・・・・・はっ」

行司が掛け声をかけようとするその前にアリシアが右脚を横に出し、左側へ体重を乗せる。
休んでいるのだ。
芝城祢々子はアリシアを睨み付ける。アリシアも芝城を見る。

 このとき芝城は不思議な事に気付いた。最初の仕切りでは気付かなかったが
 この外人の目を見ていると、何故か戦意が萎えるのだ。「戦う」というかそういった
緊張感のある張りつめたものが弱くなっていく。もっといえば彼女の目を通じて
自分の戦意を吸収されているような感じだ。そんな馬鹿な。

それと、見ている人達のアリシアへの大声援も気になっていた。
芝城にも応援者はいるのだが圧倒的にアリシアの方が多い。
普段そういった事を気にしないはずの芝城ですら、この雰囲気は少しやりづらかった。
 
 アリシアが体勢を元に戻す。
 それに合わせて芝城も構える。構えの姿勢はさっきと同じなのだが何か雰囲気が違っていた。
芝城がハッキリとイラついている。誰の目から見ても明らかだった。
 一度目は立会いで先手を取られた。今度はそうはいかない。そう意気込んだ矢先の
「連続待った」だ。 巧くかわされてしまった。もう許さない。

 「はっけよい、のこった!」

 勢い良く飛び出す芝城祢々子。迷わずまっすぐにぶつかっていこうとする。
 だが目の前にいるアリシアがフッと消えた。アリシアが左に変化したのだ。芝城も
変化するのは想定していたが 芝城はアリシアの何気ない行動を観て、アリシアが右利きだと
予測していた。だから右手側、自分から見て左に変化するものと踏んでいた。
確かにアリシアの利き手は右だが右側に動くという予測は外してしまう。意識が前と左に
向いていた芝城には相手が消えたように映り、わずかに隙が出来る。



その瞬間アリシアが素早く芝城の右腕を取る。両腕でだ。間髪入れず体を開き体重をかける。
これは「とったり」という技になる。実は芝城も得意としている技だ。

「ふざけんな!」

自分の得意技で負かされるわけにはいかなかった。
咄嗟に芝城が技のかかる方向に先に進み、技を無効化する。そして掴まれた右手を
強引に振りほどいて素早く振り返り正面に立つ。2メートル位の間合いで睨み合う二人。

アリシアは芝城を突き放そうと長い手で突っ張りを連打する。自分と相手とのリーチ差を活かした
効果的な戦い方だ。芝城の肉迫を手が届く手前で阻止している。元々アリシアは腕力が
あるので突っ張りの威力は相当なモノがある。芝城は近づけないどころか後ろに下がってしまう。
それでも前傾姿勢になり持ちこたえようとする。その中でアリシアの戻す手が遅い事に気付いた。

不意に芝城が突っ張るアリシアの手を掴もうとする。それに気付いたアリシアが
手を素早く戻す。間一髪だ。アリシアは芝城の手業を注意深く警戒していた。
そのためかアリシアの突っ張りにさっきほどの威力が無くなっていた。後退するほどでは無い。

前進する芝城。そしてジリジリと双方の距離が狭まってくる。

アリシアが芝城の右手首を掴む。芝城の手業を警戒してのことだ。だが芝城は手首を返し
あっさりと掴み返す。アリシアの体を自分の方向へグッと引き付け、両手で手首を持つ。
アリシアが手を振ってほどこうとするが何分両手で掴まれているので離れない。

ついにアリシアが捕まった。 

 
 
 優勝決定へ

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