トーナメント

一回戦 第一試合 その1

  安堂猪子 対     アリシア


「ただいまより、一回戦第一試合を行います。」



一昨年、破綻寸前のある町が地域振興のため企画したコスプレ相撲大会。
優勝者が手にする賞金30万円を12名の女子が狙うこの
相撲トーナメントの初戦が今まさに始まろうとしている。

この相撲大会は今年で2回目となる。
この大会は参加者自由ではなく、大会を企画した6人の推薦者が
                   2名ずつ連れて来た19歳以下の女子が土俵で戦うのだ。                                    

  

選考基準は明かされていないが企画した6人(以後「タニマチ」と呼ぶ)
が選んだ者の間に何らかの基準というかルールがあるようだ。
参加者12名の中で、一応は誰が優勝してもおかしくない様に見えた。
なお、賞金は優勝者のみに出る。2位も3位も0円、変わらないという事だ。


イベントは意外にも大盛況で観客は大勢見に来ていた。
何でもいいから一時でも不況を忘れたい、という思いがあるのだろうか?
そこに集まった誰もが祭りが始まるのを今か、今か、と待っている。
それに応えるかのようにアナウンスが響いた。

「東方、安堂猪子さん、西方、アリシアさん。土俵に上がって下さい。」

       準備運動をしていた一人の女の子が自分の頬をパン!と叩き、土俵に上がる。
彼女の名は安堂猪子。プロレスラー志望の17歳、高校生。
前回もこの大会に出ており、決勝まで勝ち残った猛者だ。
相撲スタイルは小細工なしの真っ向勝負で、強烈に押してくる。
対戦相手としてはとても嫌な相手だ。
12人の中でも優勝候補の一人であり、彼女も自信があった。
「余裕、余裕。今年こそあたしが優勝だ!」

対するアリシアも、ピョンと土俵に上がる。
何が嬉しいのか、何とも楽しそうだ。ニコニコ笑っている。
     彼女は今回が初参加で、実力も未知数であった。ただ身長は178センチで
   12名の中で2番目に大きい。安堂との身長差は12センチもある。
    だが、相手は去年の準優勝者だ。格が違う。たとえ突っ張りで距離を
取れたとしても安堂の突進力に押され、いつか捕まるだろう。
組んだら多分安堂には勝てない、電車道だ。
アリシアが優っているのは身長だけの様に見えた。
「長い手で懐に入らせなければアリシア、中に入ったら安堂」
これが大方の下馬評であった。

「お互いに、礼!」
ニッコリ笑って礼をするアリシアに、思わず気を緩める安堂。
アリシアの笑顔には、何か磁力のようなものがあり、見たものを
惹きつけずにはおかないのだ。
「こ、これじゃダメでしょ。」 安堂は再び両手で自分の頬を叩く。
「負けるもんか、外国人に相撲で負けるもんか・・・・。」
現代ではあまり説得力の無い言葉をつぶやき、安堂猪子は
蹲踞をした。アリシアもそれに合わせ蹲踞する。
安堂はアリシアと目を合わせない様にしていた。
「構えて!見合って、見合ってぇ!」
二人とも足を開き、グッと腰を落として両手を地面に付ける。

それまでのざわめきが一瞬止まり、心地よい緊張がその場を包み込む。
アリシアが左足を後ろに引き半身に近い体勢になる。
安堂は正面を向き、腰を突き上げる。双方気合い充分だ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「はっけよぉい・・・・・のこった!」
 
観客からどよめきが起こった。アリシアは突っ張りにいかず、
あの安堂に接近戦を挑んだのだ。あの長いリーチを振りほどき
懐にどうやって入り込もうか、それを考えていた安堂猪子にとっては
意外であったが、心中は手間がはぶけたことに小躍りしていた。
まだ一回戦なのだから体力を温存しておきたかったのだ。

「上等じゃないの、この私と真っ向勝負なんて。水に落としてやる」

最初のぶつかりあいこそ体格を活かしたアリシア有利だったが
勝負あった、と去年の観客は思った。組んだときの安堂の強さを
見たことがあるからだ。安堂はアリシアの相撲ベルトを左右とも
掴んでいる。アリシアは安堂の廻しを取らず抱きかかえ、
左右に激しく振るが、安藤はアリシアの相撲ベルトをがっちり掴んで
離さない。アリシアはどこかを掴もうと左手で安堂の右腰のあたりを
掴もうとするが上手くいかない。上から右足を取ろうとしても安堂の
寄りが猛烈なためお尻の方に手が行ってしまう。やりにくそうだった。


「フンッ!」 「クッ!」
安堂が強く寄るがアリシアが踏み止まる。両者の体が上下に揺れる。
微妙にではあるが、押しているのは安堂の方だった。
アリシアは廻しを取れてないため押しづらいのだ。かといって
突き放すには密着し過ぎている。安堂猪子が右腕に力を込める。
上手投げだ。
強烈な投げにアリシアの体が揺らぐ。だが踏み止まったアリシア。
安堂はムキになってもう一度右から投げを打つがまた堪えた。
安堂もアリシアもお互い姿勢を持ち直す。だが、今度は
アリシアの右手が上から安堂の廻しをガッチリと掴んでいた。
左手は安堂の右手を外側から押さえつけている。おっつけだ。

一進一退の攻防が続く・・・・・。


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