トーナメント

一回戦 第一試合 その3

  安堂猪子 対     アリシア


二人の頑張りに観客も声を無くしていた。
これが決勝戦なんじゃないか?という相撲内容であった。
安堂、アリシアともに疲労困憊であった。ただ、闘志は萎えていない。
でも、さすがに3度目の中断はないだろう。これで決着が付くはずだ。
お互いに礼をし蹲踞して、三度構える。

「今度こそ決着を付けてやる・・・。」思わず口にした安堂猪子
「こっちこそ負かしてやりマス・・・・。」言い返すアリシア
・・・・・気合充分!

「はっけよい・・・のこった!」


3度目の立ち合いは前の2回と違っていた。アリシアだ。
勢い良く前に出るはずが安堂の当たりを胸で受けたのだ。
アリシアの顔からも疲労の色がうかがえる。安堂は勝機と見た。
「 があっ!」
これが私のファイトスタイルだ!とばかりに力を振り絞って
安堂は押しまくった。両廻しに手がかかり、体勢は充分だった。
ただ流石に疲労は隠せず、若干腰高で相手にもたれ気味ではあったが。

「クウウゥ・・・・・」

一歩、また一歩とアリシアが押されていく。相手の廻しは掴めていない。



「頑張れガイジンさん!」

「後が無い、後が無いよ!」

アリシアの頑張りに観客の応援も熱がこもっていた。

だがその応援も空しく、アリシアは土俵際まで追い詰められてしまった。
徳俵に足が掛かり、二人とも棒立ちに近い姿勢で押し合っている。
アリシアは安堂の首を抱え、必死で耐えている。決着のときだ。

「はあ、はぁ、はあ、はあ、はぁ、はあ」
「ハァ・・・・・ハァハア・・・・ハァ・・・」
双方、全力を振り絞って相手を押し負かそうとしている。審判にも熱がこもる。

「のこったのこった!のこったのこった!」

 

必死で残るアリシア。だがもう後が無い・・・・・・。

「勝った!」

安堂猪子は勝利を確信して安堵感が出てしまい、僅かにだが力を抜いてしまった。

・・・その気持ちの緩みをアリシアは見逃さなかった。

アリシアは深く腰を落とした。これが最後のチャンスだ。
「ハァ・・・・ハァ・・・・ヤアアッ!」

腕と首を抱えた状態で猛然と押すアリシア。安堂が2歩3歩と後ずさりする。
どよめく観衆。少しだけ盛り返すが安堂も負けずに押し返す。
やはり押す力は安堂のほうが強い。押すアリシアの勢いが止まり、
また押し返される。ああ、また元の木阿弥かと思ったその時だ。

アリシアが背中を向けて両足を揃え、同時に相手の首に巻き付いた
右腕、腰を想いっきり捻り、上腕を抱えた左腕を引く。前進中に首にもの凄い
捻る力が加わり、つんのめる安堂。「しまった!」しかし安堂も必死で耐える。
バランスが崩れた所へ振りかぶり、もう一度投げを打つアリシア。執拗な攻撃に

2度、3度と安堂は堪えたが4度目の投げに疲労した体はもう堪えられなかった。



安堂猪子の体が宙に浮く。そこへアリシアが自分の体重をあずける。
アリシアの得意技、首投げだ。二人の体が重なって崩れ落ちる。 

ドスン!

安堂猪子の上にアリシアが覆いかぶさっている。
アリシアの逆転勝ちだ。
「ハア・・・・・ハァ・・・・・フゥ。」
疲れ切って惚けたような顔をしながらアリシアは、しばらく立ち上がれなかった。
安堂猪子も大の字になり、息を整えている。疲労困憊の様子だ。
一回戦第一試合から波乱の展開が起こっていた。

     














 

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